東野圭吾の小説『変身』は、脳移植による人格の変化をテーマにしたサスペンス作品です。
この記事では、『変身』のあらすじをネタバレを含めて詳しく解説し、物語のテーマや見どころについて考察していきます。
この記事を読むと、以下のことが理解できます。
- 『変身』の主要な登場人物とその関係
- 物語の結末と最後の一行の意味
- 作品のテーマである脳移植の倫理的問題
- ドラマ・映画と原作の違い
- 登場人物の心理描写や人間関係の複雑さ
- 物語の根底にあるテーマやメッセージ
東野圭吾『変身』のあらすじ(ネタバレあり)

成瀬純一の変化
物語は、24歳の青年・成瀬純一が不動産屋での強盗事件に巻き込まれ、頭を銃撃されることから始まります。 彼は世界初の脳移植手術を受け、一命を取り留めました。
しかし、退院後の彼は、徐々に性格や嗜好が変わっていくことに気づきます。
純一は元々内向的で絵を描くことが好きな穏やかな性格でした。
しかし、退院後は攻撃的な性格に変わり、以前好きだった恋人・葉村恵に対する感情が冷めていきます。
さらに、缶コーヒーを好むようになったり、音楽に興味を持つようになるなど、以前とは異なる嗜好を示すようになります。
ドナーの正体
純一は自分が変化していくことに恐怖を感じ、移植された脳のドナーについて調べ始めます。
やがて彼は、移植された脳の持ち主が京極瞬介という人物であることを突き止めます。
瞬介は音楽家志望の青年でしたが、強盗事件の犯人として警察に追われ、自殺していました。
純一は、ドナーの影響で人格が変化しているのではないかと疑い、京極の妹・京極亮子と接触します。 亮子は純一に対し、不思議な親近感を抱きます。
変わりゆく自分と最期の決断
純一の性格はますます凶暴になり、ついには研究助手の橘直子を殺害してしまいます。
彼は自分の人格が完全に京極のものになってしまうことを恐れ、手術を担当した堂元教授に脳の再手術を頼みます。
しかし、教授はそれを拒否し、移植された脳を取り除くことは不可能だと告げます。
絶望した純一は、かつての自分を取り戻すために、最後の選択をします。
彼は拳銃を手に取り、自らの頭を撃ち抜くのです。
最後の一行
奇跡的に命を取り留めた純一は、植物状態となります。
彼の描いた最後の絵は葉村恵の肖像画でした。 その絵には、以前は気にしていた彼女のそばかすがしっかりと描かれていました。
『変身』の結末とその後

結末の展開
物語のラストでは、純一は植物状態になりながらも、生前に描いた絵が高く評価され、その売上で延命治療が続けられます。
葉村恵は純一を最後まで支え続け、彼の最後の絵を手元に残します。
その後の展開
純一が京極瞬介に完全に乗っ取られる前に自ら命を絶つことで、わずかに残っていた自分の人格を守ろうとしたラストは、非常に切なく、救いのない結末とも言えます。
しかし、葉村恵が彼の最後の絵を大切に持ち続けることで、彼が「生きた証」が残されることになります。
東野圭吾『変身』のテーマと考察

脳移植と人格の変化
本作の中心テーマは、脳移植によって人格が変化するというSF的な要素です。
現実ではまだ不可能な技術ですが、「もし脳の一部を移植したら、その人の意識や性格はどうなるのか?」という問いが読者に投げかけられます。
アイデンティティの喪失
純一が徐々に京極瞬介へと変わっていく様子は、「自分とは何か?」というアイデンティティの問題を浮き彫りにします。
特に、最終的に彼が自ら命を絶つ決断をしたのは、「自分でなくなってしまう恐怖」からでした。
このテーマは、多くの読者に強い印象を残します。
人間の倫理と科学の進歩
堂元教授は、純一の命を救うために脳移植を行いましたが、その結果として純一は別人のようになってしまいました。
これは「科学の進歩は必ずしも人間にとって幸せなものではない」という警鐘とも取れます。
東野圭吾『変身』の映像化
映画とドラマの違い
『変身』は、2005年に玉木宏主演で映画化、2014年に神木隆之介主演でドラマ化されました。
映画とドラマでは、原作と異なる展開があり、特にラストの描写に違いがあります。
- 映画版:純一の変化に重点を置き、より心理描写が深く描かれている。
- ドラマ版:恋愛要素が強調され、純一と恵の関係にフォーカスが当てられている。
『変身』の評価と読後の感想

読者の評価
『変身』は、東野圭吾の初期作品ながらも、高い評価を受けています。
ただし、結末が救いのない展開のため、読後感は重いという意見も多いです。
作品の魅力
『変身』の魅力は、脳移植というテーマを通じて描かれる「人間の本質」についての問いかけにあります。
また、純一の変化を他者の視点からも描くことで、読者が客観的に彼の変貌を見つめられる構成が秀逸です。